山縣洋建築設計事務所

Floating　Patio

敷地は木更津の郊外にある新しく開発された分譲地にある。ゆるやかな南斜面に雛壇状に造成された７０坪前後の大きさの区画が続いている。敷地は南東角地となる２区画を使っている。２区画の地盤レベルは約80ｃｍの高低差があり、この宅地ではよく見かける微妙なレベル差を計画に利用できないかと考えた。建築主は共働きのご夫婦と高校生の女の子の３人家族であり、留守がちなので、セキュリティーの高さとプライバシーの確保、手入れのあまり必要としない庭が要望された。建物は北側の区画に東西方向に部屋を並べて全室南面するオーソドックスな配置計画とした。南側の区画には1辺が12ｍの正方形の平面形状をもち、周囲を高さ2.7ｍの壁で囲われた庭がある。外部空間を壁によって囲ったと言うよりも、床、壁、屋根をもったボックスの屋根と床に穴を開けて、外部空間にしたと言った方がいいかもしれない。その庭のボックスを造成のレベル差である80ｃｍという微妙な高さに浮かしている。スラブには直径6ｍの丸い穴があけられ、そこから地面から盛り上がった築山の緑がにょきっと頭を出し、この庭が空中に浮いていることを認知させる。この独特な空間性をもった庭をつくることをテーマとし、建物やアプローチなどをこの浮上した中庭‘Floating　Patio’をめぐって計画していった。　

　アプローチのシークエンスはまず東側の道路ぞいの自立壁にあけられた門をくぐると、正面の開口を通して、築山の一部が背景となり、この場所のために鍛金作家の小林秀幹氏がつくった彫刻作品が見えてくる。自立壁にそったスロープを登り、上部にオーバーハングした２階のボリュームの下が玄関ポーチとなっている。玄関に入ると、正面の水盤越しに先ほどの彫刻が水面に反射している。　

　１階と２階とはリビングとダイニングゾーンを仕切るように配置された木のかたまりのような内部階段と中庭と２階のテラスを結ぶゆるやかな外部階段によってつながり、動線に回遊性を持たせた。この動線に絡めて３つの庭と２つの光を配している。３つの庭とは、敷地の南東角の街に対して開かれた前庭と建物の中心的存在の浮上した中庭と建物の一番奥まったところにある坪庭である。それぞれ異なる性格を持たせている。２つの光とはスロットと呼んでいるスリット状の穴から入ってくる光のことで、１つは内部階段の上部に、もう１つはガラス床の廊下部分にあり、１階の奥に光を落としている。日常生活における移動とともにこれらの３つの庭や２つの光が様々なシーンを生み出し、この住宅により豊かな空間性が生まれることを期待した。