写真 © Masao Nishikawa
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八聖殿

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場所
埼玉, 日本
2015

「生」に関わる場として、寺を街に開放する
近年、都市化に伴う地域共同体の衰退が、祖先崇拝をはじめとする日本人の宗教意識を変化させ、日本の多くの寺院の財政基盤である寺檀制度を弱体化させている。このような時代的傾向に呼応するように登場する納骨堂という新たな墓の形式は、代々継承する家墓とは異なり、寺檀制度に沿うものではない。
川口市内のこの寺院は、このような時代背景の中、元々あった庭園が葬儀場と駐車場に変わり、それが本堂の佇まいを圧迫、高い塀が街に対して閉鎖的に境内を囲んでいた。そこにひっそりと殆ど使われていない築40年あまりの納骨堂が建っていた。
本来仏教は家の継承を願う祖先崇拝にだけ与するものではないし、お墓の形式は変わってもお墓参りという習慣は然う然う変わらないのだから、「死」に関わる納骨堂の改修だけでなく、「生」に関わる場として寺を再生させたいと考えた。
湾曲していた表参道を真っ直ぐにして、そのパースペクティブの焦点が本堂に合うように既存の御影石を使って付け替え、元々表参道のあった場所は植栽して葬儀の場と参拝の場を明確に分節した。その上で、表参道周りの塀を全て撤去して、伝統宗教が本来持っている吸引力を街に対して開放させた。水屋やトイレ、「偲びの小径」や表参道から伸びる枝参道の位置は参拝行動や敷地全体との関係で決めて、1箇所に集められていた地蔵や仏像をその参道沿いに適宜分散配置した。

一回性の自然現象により、参拝の時間をデザインする
新たな墓の形式がモニュメントや機械仕掛け等人為的予定調和に頼るものが多い中、故人に対面し、偲ぶのに相応しい時間/空間は人智を超えた超越的なものでなければならないと考えている。
表参道両側の樹木や足下の草花は、木漏れ日で光を、葉擦れの音で風を、異なる結実や開花時期によって季節の移り変わりを情緒豊かに伝えてくれる。トイレや水屋の表情豊かな壁面や水盤に広がる波紋はその一回性の自然現象を豊かに映し出し、自然のゆらぎを取り出すフィルターとして機能している。
こうして「死」の象徴である納骨堂や墓に対して、そこにに至るまでの参道を「生」の象徴として対置させた。水盤を跨ぐように掛けられた階段は生死を分ける結界として機能する。八角形の納骨堂は宇宙のかたち=冥土そのもので、薄暗いエントランスはその輝度差ゆえ場の変換を意識させ、中心部にある版築の螺旋階段は天空のトップライトが土中を意識させつつ、回転運動の中で内省を促す。辿り着いた納骨室は光る扉が惑星のようで、竹天井隙間からの光が星のように瞬き、宇宙空間を連想させる。ここで故人と対面する。一連の建築的設えは参拝行為の時系列に沿って直接知覚に訴えるように出来ている。

命の繰り返しを見守る定点
改修後、子供連れの参拝者が増えたそうだ。夏には是非、その子供達に水盤で遊んで欲しいと思っている。小さい時に寺で遊び、お参りをして寺への愛着を育み、結婚して子供をつくり、死んで行く。寺はその命の繰り返しを静かに見守る場所であって欲しい。この改修は寺を本来の姿に戻す計画であった。寺は変わらない方が良い。

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